Samurai Blue ~Back to World Cup 2010 in South Africa 日本代表・W杯直前の変革
■戦い方を大きく変える契機になった闘莉王の発言
2010年を迎えてから、日本代表は思うようにチーム作りが進まなかった。2月の東アジア選手権ではアジア予選敗退の中国に引き分け(0-0)、韓国に完敗(1-3)し、岡田監督の解任論がヒートアップしたほどだった。3月のバーレーン戦(2-0)勝利でいったん火は消えたが、4月のセルビア戦(0-3)、5月の韓国戦(0-2)と続けざまに敗れ、「今は最低に近い」と長谷部誠が言うほど選手たちは自信を喪失していた。
最終予選の主力だったメンバーたちは当初、岡田監督の目指すスタイルで本大会でも戦えると信じていた。「(昨年)オランダに負けて、ガーナに勝ったときは手ごたえを感じた。戦術的に前からいくことをやり続けようと思っていた。だけど今年になってからうまくいかなくなった」と中村憲剛も振り返る。「岡田さんもそのスタイルでやり切ると信じていたから、昨年秋の段階で守備的な戦い方に変えて準備するようなことはしなかったんでしょう」と楢崎正剛も指揮官の胸の内を代弁していた。
だが、永遠のライバル・韓国にわずか半年間で2度の完敗を喫したことは、あまりに衝撃が大きかった。そこでチームキャプテンの川口能活は全員が同じ方向を見て戦うべきだと考え、ザースフェー入り直後の5月27日の夜、選手だけでミーティングを開いた。
「僕が提案した話し合いをみんなが受け入れてくれた。僕は1年以上、代表から離れていて、けがで公式戦に全く出ていない状況だったにもかかわらず、みんながやろうと応じてくれた。それに感謝しています」(川口)
このミーティングに対して、川口らベテランは士気高揚だけを目的にしていた。しかし、「本来なら精神的な確認だけで良かったはず。戦術の話は監督が決めるべきことだから。それなのに、だんだん話が戦術的な方向にいった」(楢崎)
そんな時、田中マルクス闘莉王が予想外の一言を口にした。
「おれたちは弱いんだから、カッコつけている場合じゃない。やれることを泥臭くやるしかないんだ。
ボールをつなげないんならつながなくたっていい。引いて守ったっていいんだ」
この発言は、多くの選手たちの心を激しく揺さぶった。
「闘莉王さんが言ったことは、今も強く残っています。大会前の一番悪い状況だった時に『W杯は甘いもんじゃない』と気づかせてくれたから。親善試合で強い国と戦っても相手が手を抜いたり、主力がいなかったりしてなんとなくやれていたところがあったけど、ベスト布陣で来たらキレイになんてできないっていう危機感をあらためて持つことができた」と今野泰幸はしみじみ話す。駒野友一も「あの発言が一番の刺激になったのは間違いない」と認める。
なぜこんなことを言い出したのか。闘莉王本人にも尋ねてみた。
「自分はセルビア戦も韓国戦も出ていなくて、少し外からチームを見ていたけど、みんな自信を失っていた。情けない試合をしたのを見て、やっぱりおれらの原点は頑張るってところにあるんじゃないかと思った。相手より1つでも頑張って走らなきゃいけないっていうのをずっと感じていたから言ったんですけどね」